みりんや醤油をはじめ、蕎麦や肉じゃがなどの日本料理に使われる出汁やソース、その他様々な調味料にはアルコールが使われています。

しかし、アルコールが含まれているという理由で日本料理を食べることができない人達が国境を越え多く存在します。世界に少なくとも20億人近くいるムスリムの人々です。そのような状況を受け、香川県にある鎌田醤油は地元の特産品である讃岐うどんをより多くの人に食べてもらおうとノンアルコールのうどん出汁をハラール認証申請する準備を進めています。

ノンアルコールのうどん出汁を開発するというアイディアは、現在坂出市の醤油メーカーに勤務するインドネシア人女性、アルム・ティヤス・スミナールさん(28歳)によって発案されました。彼女は香川大学の大学院を卒業し、今の仕事に就きました。

学生時代にアルムさんは近所の食堂で讃岐うどんを食べようとしたことがありました。しかし、うどんが目の前に運ばれてきた際に出汁に醤油かみりんが使われているのではないかと思い当たり店員に尋ねたところ、「使っている」との答えが返ってきました。みりんは米から作られる甘い料理酒です。その返事を聞き、アルムさんはうどんを食べることをあきらめなければなりませんでした。

この経験が、後の彼女が従事する職業に影響をもたらすことになりました。2019年に大学院を修了して鎌田醤油に就職したアルムさんは、ムスリムに対するハラール製品の重要性を同僚に広め、アルコールを含まない醤油出汁の開発に乗り出しました。

完成した製品にはアルコール成分も動物由来物質も使用されておらず、また、みりんの代わりとなる原材料の配合にも気を配ったといいます。

ハラール認証には浄化された製造ラインを使用するという条件があります。1789年創業の鎌田醤油はこの条件をクリアするため製造装置を指定の洗浄剤でを6回水洗いすることで対応しています。

製造部門に所属するアルムさんの上司ナイトウトシノブさんは彼女の根気強さについてこう言います。「彼女はやりたいことをとことん追求する強い意志を持っています。そういう人が仕事をすると、一番いい結果が生まれるんです。」

試行錯誤の末、ムスリム向けのうどん出汁醤油が完成し2022年に発売されました。2023年にハラール認証取得を計画していることについてアルムさんは「ハラールが何かという基準は人によって異なりますが、認証マークがついていればムスリム全員が安心して食べることができます。」と語っています。

申請に先立ち、同社はムスリムの人口が2億人を超えるインドネシアで製品が要件を満たしていることを最初に確認する意向です。その後の申請手続きはオンライン申請、書類審査、現地調査、そして最終審査という流れを予定しています。

2030年までには世界のムスリム人口が20億人を超えると予想され、鎌田醤油はこの製品には世界的な潜在需要があるだろうと見込んでいます。ムスリム人口の増加に伴い、日本でもこのようにハラール認証を取得する事業者が増えてきています。

「認証が取れればムスリムの多い国へ輸出することも視野に入れます」とナイトウさんは言います。ハラール認証には費用と期間を要しますが、アルムさんは「私の人生においてあきらめるということはありません。」と意志を固めています。